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東京地方裁判所 平成5年(特わ)2220号 判決

裁判所書記官

釜萢範人

本店所在地

東京都江戸川区一之江六丁目四番二号

株式会社大興商会

(右代表者代表取締役 鈴木紀元)

本籍

東京都江戸川区一之江六丁目六四番地五五

住居

千葉県八千代市大和田新田五九番八五号

会社役員

鈴木紀元

昭和二〇年二月一一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官加藤昭、弁護人佐藤義行、同後藤正幸各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社大興商会を罰金二四〇〇万円に、被告人鈴木紀元を懲役一年に処する。

被告人鈴木紀元に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、被告人株式会社大興商会及び被告人鈴木紀元の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社大興商会(以下「被告会社」という)は、東京都江戸川区一之江六丁目四番二号に本店を置き、土木工事の請負等を目的とする資本金一〇〇〇万円(平成二年六月七日以前は三〇〇万円)の株式会社であり、被告人鈴木紀元(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、架空外注加工費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和六三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億六一二三万七六四二円(別紙1-1修正損益計算書及び1-2修正当期製造原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成元年二月二八日、東京都江戸川区平井一丁目一六番一一号所在の所轄江戸川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二三三六万〇四六四円で、これに対する法人税額が八七九万四九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額六六七〇万三三〇〇円と右申告税額との差額五七九〇万八四〇〇円(別紙2ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億九七七五万三二六七円(別紙3-1修正損益計算書及び3-2修正当期製造原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成三年二月二七日、前記江戸川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九六八九万二七八五円で、これに対する法人税額が三八〇六万四二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額七七五八万八五〇〇円と右申告税額との差額三九五二万四三〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

括弧内の甲乙の番号は、証拠等関係カード(検察官請求分)の証拠番号である。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書七通

一  島村忠の検察官に対する供述調書

一  鈴木民子の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲19)

一  大蔵事務官作成の売上高調査書、賃金給料調査書、外注加工費調査書、減価償却費調査書、廃棄材処分費調査書、給与手当調査書、交際費調査書、受取利息調査書、固定資産売却益調査書、交際費の損金不算入額調査書及び領置てん末書

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  登記官作成の登記簿謄本及び閉鎖登記簿謄本(二通)

判示第一の事実について

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(乙16)

一  証人川﨑俊彦及び同平山恒雄の当公判廷における各供述

一  永谷勝二及び臼倉常和の検察官に対する各供述調書

一  検察官作成の捜査報告書(甲33、35)

一  大蔵事務官作成の研修費調査書及び検査てん末書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成五年押第一六六九号の1)

判示第二の事実について

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(乙15)

一  伊藤正次の検察官に対する供述調書

一  廣世昇及び鈴木民子(甲20)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の支払手数料調査書、雑費調査書、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書及び報告書(二通)

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同号の2)

(弁護人の主張に対する判断)

一  弁護人は、検察官は被告会社及び平山建設株式会社(以下「平山建設」という)の共同企業体(以下「本件企業体」という)が株式会社高橋土木(以下「高橋土木」という)から請け負った目黒共同ビル建設に伴う掘削・残土処分工事(以下「本件工事」という)に関する被告会社の売上高四二三七万一七三四円を、被告会社の昭和六三年一二月期の収益の一部として計上しているが、〈1〉本件工事が完了したのは平成元年一月であり、〈2〉仮に、本件工事が昭和六三年一二月に完了していたとしても、本件企業体の本件工事に関する計算が終了したのは平成元年になってからであるから、いずれにしても本件工事の売上は平成元年一二月期の収益として計上されるべきである、と主張する。

二  〈1〉の主張について

関係証拠によれば、本件企業体から高橋土木に対する本件工事代金の請求は、(a)昭和六三年一〇月三一日付け、(b)同年一一月三〇日付け、(c)同年一二月二〇日付け、(d)同月三一日付けの各請求書によってなされていること(請求金額は(a)五四〇〇万円、(b)三六〇〇万円、(c)一八万円、(d)八五〇万二〇〇〇円である)、これに対する代金の支払は、東榮信用金庫に開設された平山建設(株)目黒共同ビル作業所名義の普通預金口座へ振り込む方法によってなされ、同月一二日に四六九九万一〇〇〇円、平成元年一月一三日に二二五〇万〇五五〇円、同年二月一三日に五一九万九九〇〇円が振り込まれていること、被告会社は右口座から昭和六三年一二月二三日に二〇〇〇万円、平成元年二月一六日に二二三七万一七三四円の支払を受けていることが認められる。

そこで、本件工事の完了時期について検討するに、川﨑俊彦及び平山恒雄の各証言、検察官作成の捜査報告書(甲33、35)等の関係証拠によれば、高橋土木では本件工事の現場監督として大竹千代志を派遣していたが、同社が作成保管していた全従業員の出勤簿に大竹が本件工事現場へ派遣された旨の記載があるのは昭和六三年一二月一九日であり、それ以降に他の者が現場監督として本件工事現場へ派遣された旨の記載は見当たらないこと、他方、平山建設が作成保管していた本件工事の稼働表に作業内容の記載があるのは、被告会社が同月一六日、平山建設が同月一七日までであることが認められる。そして、本件工事の完了時期については、右出勤簿及び稼働表の記載が強い証明力を有しているというべきであるから、本件工事は昭和六三年一二月に完成していると認められる(仮に、平成元年一月にも本件工事が行われたとするならば、高橋土木及び平山建設が右出勤簿あるいは稼働表にその旨の記載をしなかったことの説明がつかないことになる)。なお、(d)の請求書中には「未作業分三〇〇m3」との記載が存するが、川﨑及び平山の各証言によれば、右の記載は、当初の契約では作業をする予定であったが、その後に作業をしなくてもよくなった分量を表示したもので、(d)の請求書を発行した時点で本件工事に未作業部分が残っていることを示すものではないことが認められる。

これに対し、被告人は、公判において、本件工事が完了したのは平成元年一月であると供述するが、その内容は客観的裏付けのない曖昧なものである上、被告人は検察官調書において、本件工事の売上が昭和六三年一二月期の収益になることを前提とした詳細な供述をしていることも併せ考えると、右公判供述は信用できない。

三  〈2〉の主張について

関係証拠によれば、本件企業体が本件工事に着工し、これを完成させたのはいずれも昭和六三年中のことであると認められるから、被告会社の本件工事の売上は昭和六三年一二月期の収益として計上されるべきである。これに対し、弁護人が〈2〉の主張の根拠とする法人税基本通達一四-一-一は、法人を構成員とする組合事業による損益の帰属時期について、原則的には各組合員たる法人の事業年度に合わせてその期間の損益を計算すべきであるが、計算の便宜を考慮して、組合の計算期間の終了の日の属する事業年度の損金又は益金の額に算入することとしたものと解されるところ、関係証拠によれば、本件企業体は本件工事だけについて結成された短命的な共同企業体であり、被告会社と平山建設はそれぞれ独立して本件工事を行い、工事代金の分配額は作業日報により確定される各社の工事量に応じて決められていたこと、被告会社が本件工事代金から得る最終的な分配額は、昭和六三年一二月期の法定申告期限以前の平成元年二月中旬までには確定していたことが認められるから、本件においては右通達がその趣旨とする計算の便宜を考慮する必要はなく、被告会社の本件工事の売上は昭和六三年一二期の収益として計上されるべきである。

四  以上のとおり、本件工事は昭和六三年一二月に完成しており、その売上は同年一二月期の収益として計上すべきであると認められるから、弁護人の前記主張は採用できない。

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社について 判示各事実につき、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項(罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条により平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)、二項(情状による)

2  被告人について 判示各所為につき、いずれも法人税法一五九条一項

(罰金刑の寡額については、前と同じ)

二  刑種の選択

被告人について いずれも懲役刑

三  併合罪の処理

1  被告会社について 刑法四五条前段、四八条二項(各罪の罰金額を合算)

2  被告人について 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重)

四  刑の執行猶予

被告人について 刑法二五条一項

五  訴訟費用 刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条(被告会社及び被告人の連帯負担)

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社・罰金三〇〇〇万円、被告人・懲役一年)

(裁判官 中里智美)

別紙1-1 修正損益計算書

〈省略〉

〈省略〉

別紙1-2 修正当期製造原価報告書

〈省略〉

別紙2 ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙3-1 修正損益計算書

〈省略〉

〈省略〉

別紙3-2 修正当期製造原価報告書

〈省略〉

別紙4 ほ脱税額計算書

〈省略〉

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